撮影 Rulu
夢を見た。
大人になった「私」は20年ぶりにこの街へやってきて、大人になった「ヒロ君」と思い出の場所を巡っていた。
登校拒否になった「ヒロ君」…イノセント本編では2度と会う事は無かったのだけれど、本当はその後一度だけ会っている。
パチンコ三昧の両親が離婚し、ヒロ君が引き取られて行った長崎。
喘息で入院していた長崎の医大で顔を見たのが最後だ。
高校生になったヒロ君はそっぽを向いたままで、結局一言も言葉を交わさなかった。
ヒロ君の妹はその後も元の場所に住んでいて、矢張り一度だけ訪ねてみたけれど、会えず仕舞いだったんだ。
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夢で再会した私たちは「あたしたちの街」を一つずつ確認しながら歩いていた。
「あたしん家」だった家は何だかとてもちっぽけで、誰だか知らないヒトが住んでいた。「猫のマミー」が眠ってる裏庭はホトケノザが満開で。
いつでもチェッカーズという人の歌が流れていた「ヒロ君家」はもう無くなっていて、草ボーボーの更地になっていた。
「ヒロ君家」と「あたしん家」の裏口を繋いでいた秘密の通路には三階建ての豪華な家が建っていた。
夏休みに花火をしたグラウンドはもう入れなくなっていたし、「ヒロ君」と「ゆう君」がうがいのためにコーラを買っていた自販機のある駄菓子屋さんは、おばあちゃんもとうの昔に亡くなっていて、面影を残したまま廃墟と化していた。
みわちゃんが住んでいた集合住宅は残っていたものの、どんよりとした重苦しい空気を纏っていたのに、テレクラで遊んだあの電話ボックスだけは何も変わらずそのままだった。
最初から何も無かったかの様に、単にそこに在るだけだっだ。
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「小さなあたしたちの街」は15分も経たないうちに廻り終えてしまった。
そして
あの頃は無かった筈の大きな大きな桜の木に差し掛かった。
暫く無言で眺めていたけれど…
ふと気が付くと目の前にいつの間にか風呂敷みたいな小さな沼が広がっていて丁度ヒロ君が沢山のれんげ草と共に沼へ沈んで行く所だった。
やや驚きはしたけれど、まるで始めからそうなる事が分かっていた様に、ただただ最期まで眺め続けた。
ヒロ君が何か言った気がしたけれど、聞き取れないままだった。苦しそうな、嬉しそうな顔をして。
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そこで目覚めた。
書かねば。
そう思って、10年も前に書いていたイノセントを探し出したのだった。
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ここに遺した事は、単なる夢かもしれないし、事実かもしれないし…両方なのかもしれない。
本当のことは「私」にも分からないのだから。
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【あとがき】
何故、タイトルを30年後…としたかと言えば、30年前のヒロ君の記憶が一番鮮明に残っているからだ。
彼はあの年で人として正しい事は何か?って事も、「学校のクラスメイト」という世間の目も、大人達の事情も全部ちゃんと分かっていたんだと思う。
中学生になって、私はいじめられっ子のまま登校し続けるという生き方を選んだけれど、何も悪く無いヒロ君は登校拒否という形で自分なりの正義と大人達への訴えを貫いた。
ヒロ君に対して何らかの感情を持っていた訳では無いと断言出来るけれど…大人になった私から見て、ヒロ君は私の人生で最初の「おともだち」だった。