女は少しずつ記憶を保てる時間が減っていく。
1日の中で自分の記憶の中に空白が増えていく事に気づく。
夜から朝に変わる色のコントラストを思い出せない、真昼間の白昼夢のような朧げ、23時50分の電車に乗るはずだったのに、何故夜の街を彷徨いているのかを思い出せない。
思い出すことができない。
記憶を失う病は加速していき女は10分しか記憶が保てなくなった。
女はもう記憶を失くすことの恐ろしさを思い出すことができなくなっていた。
手元にあった紙に書いた言葉、
24時間の中で23時間50分の苦しみがあるのなら、私はもう10分だけの世界で構いません。
その言葉を自分が書いたものだと思い出すことも出来なかった。
女は普通の日常生活が送れなくなり精神病棟に入院した。
女には恋人がいた。
毎日仕事終わりに男は女の好きな花や食べ物を持って会いに来た。
男は女が10分の世界でしか生きられない事を知りながらも、その10分の世界と共に生きていくことを決めた。
それは一生傷つきながら生きていくことの選択だった。
何度愛してると伝えても女はその言葉を忘れていく。
積み重ねても積み重ねても溢れていく。
始まる事のない物語の中に閉じ込められた感覚だった。
それでも時間が許す限り女の側を離れなかった。
女が入院している部屋は隔離された個室だったので愛し合うことはできた。
男は女と愛し合うたびに女の体に一センチの切り傷をつけた。
5回愛し合えば傷の長さは5センチになる。
男は愛し合った事だけは形に残したくて、女の体に少しずつ傷を刻み絵にしようとした。
絵の具では消えてしまう、だからナイフで女の体に傷を刻んだ。
女が閉じ込められた世界から解放されるように背中に翼の絵を描こうとした。
女は愛し合った後に体に切り傷をつけられ、痛み、血を流すことを受け入れた。
愛を記憶に残せないなら、身体に残すしかなかったのだ。
絵の続きを刻むために愛し合った日もあった、何度も愛し合ったために傷が長くなり大量に血を流した日もあった。
どれだけの時間を費やしたか、女の背中に翼の絵が完成した。
女は自分の背中の絵を見て言った。
「どうして、私の背中に翼の絵があるの?」
費やした時間、血を流した痛み、愛し合った事を覚えていなかった。
始まらない世界の中で作った、一生消えることのない翼。
始まらない閉じ込められた世界でも愛する自由があればいつまでも側にいられること。
その気持ちこそが男にとって翼になった。
物語
楽しみにしていました。
「10分の世界」
私の想像を絶します。
繰り返しの記憶の消滅は
自分の精神ってどうなるんだろうって..
何度も繰り返されることに
もしかしたら条件反射での感覚は
残っていくものなのかな
痛みを繰り返すことでの記録は
どこか記憶とつながっていったりして
とか、いろんな創造膨らみます。
いろんな愛の形がるから
近づきすぎて
心が傷っいたりするものもあるから
時間って距離の
いろんなものに距離のある愛もまた
究極なのかもしれないって
思ったりしています。
続編楽しみにしています♪
haguさん、読んでくださってありがとうございます☺️
これ、夢で見たものを文章にしたんです。
脳は痛覚を記憶しようとするので、
身体の記憶は彼女の中にあったんだと思います。
そういうとこも書けたらよかったんですが、文章力がなさすぎて🥲
究極の愛について書けるようになりたいです。
いつもコメントくれてありがとうございます🤗