チャンネル放送が始まる
願わくば私だけ
誰も見ていないことを祈る
彼女のチャンネルは
決まって29時当たり
まだあたりも暗い寝静まった時間
4階あたりのベランダに
灰皿とジンのボトル
たばこの火がゆっくりと燃え上がり
ON AIR
曲をかけるとすると
何がよいんだろう
吸い込んだ煙を吐くときの
吐息に似た声に合わせ
たぶん彼女は知るはずもない
60年第あたりのジャズがよい
まだ視聴者はいない
けれどそろそろ決まっていつものやつ
二人、三人での楽しい会話が始まって
私はいつも傍観者
画面に映る
ベランダ越しの
点滅信号
そしていつものように
彼女は寝落ちする
視聴者は一人
60年代なら純粋に思えるこの光景も
今では執着者にままならない
点滅信号と都会の朝に
やはり今日も
ジャズはとてもあう。